...白い快楽。
GARDENISSIMA2002 : 2002/03/24
Posted at 2002/03/24 06:00:00 0/0


2002/03/24。曇り。気温−2度。レース本番の日。

7:30過ぎにスタート地点のセチェダへ昇る。標高2518m。強風のため気温は−14度まで下がっていた。寒くて震えが止まらない。前日までの穏やかな天気はどこかへ去っていってしまった。見上げると暗灰色の雲が物凄い速さで空を駆け抜けている。東の空が明るくなっているので天気が回復することを祈りつつインスペクション開始。ガルデニッシマのインスペクションは豪快。堂々とポールアタックする人が続出する。けれど旗門員は何も言わない。「本当にいいのかなぁ?」と思いつつ体を暖めるために自分もアタックする。GSよりもSGに近いようなポールセットになっている。それにしても硬いバーンだ。

スタート地点にいると寒さと強風で凍りつきそうなのでレースコースのほぼ中間地点にあるリフト乗り場脇で出走順が早い人たちを見守る。パイオニエリB2(60歳−65歳)クラスのIさん、Kさん、シニア女性(35歳以下)クラスのAさんが無事コースを通過していく。Aさん、レース中にこっち向いて手を振っている場合じゃないって。(苦笑)一緒に見ていたSaさんが大慌てでスタート地点へ昇る。デュアルスタートだから意外に早く出走順がやってくる。Saさん間に合うのかなぁ。

そうやって出走順を待つこと3時間あまり。天候もかなり回復して青空が見えている。スタート地点では細貝プロがみんなのスタートを見守っている。寒い中での応援、ご苦労さまです。



(スタート直後の急斜面で悪戦苦闘する。細貝プロ撮影)


ゼッケン484。ついにスタート。コース合流地点までは右側の青コースを滑る。スタート直後の急斜面は雪が落ちて青光りしている。初っ端から腰が引けてバランスを崩す。スケートリンクにポールが立っているかのようだ。簡単に滑走ラインが落ちていく。先行して滑っていた赤コースの同走者が派手にクラッシュしてコースアウトした。視界の左隅でその光景がコマ送りで過ぎていく。そんなものを見てしまったので余計に焦る。スタート前に決意していたフルアタックの意志もむなしく必死の体で急斜面を滑り降りる。まだまだこれからなのに緊張で手が痺れてきた。小さいプレジャンプから赤コースと青コースの合流までを何事もなくクリア。これからが辛抱の時だ。中間地点のリフト乗り場あたりから急にコース幅が狭まり連続した斜面変化がやってくる。中斜面は旗門の振幅が大きくなるため油断はできないし、緩斜面は旗門がほぼストレートに設定されているため予想していた以上に滑走スピードが乗ってくる。手の震えはまだとまらない。コース脇から歓声が聞こえてくる。最後の狭い廊下を抜けて大半径の高速右ターンを気持ちよくクリアして最後の長い緩斜面に突入。太腿が悲鳴を上げているが必死の思いでクローチング姿勢を取り続ける。そして倒れこむようにゴール。顔を上げることができない。俯いたまま自分の手を握り締めてみる。まだ痺れが続いていてあまり力が入らない。カラダの痺れがココロに伝わってくる。何かが響くような感じ。忘我の境地に達するような感覚。現実に戻ったのは「ジャポネーゼ!サムラーイ!」と言う司会の声。今の自分にはそのコールに応える余裕がまったく無かった。

ゴールエリアを出て先に滑り終えたShiさん、Saさんと握手。二人とも呆然半分、安堵半分という感じだ。そんな自分も同じなのだが。

結果はシニア男性クラス72人中61位。目標としていた半分以上の順位には届かなかった。カテゴリートップとのタイム差は約1分20秒。悔しいけれどこれが今の実力である。

15:00過ぎから表彰式が盛大に始まった。次々に各カテゴリーの上位選手の表彰が始まる。FISポイント所持者のトップは、男子がローランド=フィッシュネーラー。女子はイゾルデ=コストナーが5連覇を達成。彼女はヴァルガルディナの麓にある街、オルティセイの出身らしい。大歓声が上がる。その他にもソルトレイク・パラリンピック、アルペン/男子スーパー大回転(LW2クラス)の銅メダリスト、フロリアン・プランカーも表彰されていた。そしてパイオニエリB2クラス。なんと一緒に参加していたKさんが2位、Iさんが3位で表彰を受けた。表彰台に昇ったKさんはちょっと照れているようだ。会場から歓声と盛大な拍手が上がる。(残念ながらIさんは体調不良により表彰式を欠席)

その日の夕食は、全員が解放感に包まれていた。やはり皆どこか緊張していたのだろう。ISCとして目標にしていた"全員完走"も果たすことができた。完走記念にスプマンテのボトルを空ける。レースリザルトを見ながらのレース話が盛り上がる。

達成感に満たされた長い一日が終わった。
(続く)