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冷たい雨が降るこんな日の東京。
「お客さん。乗るの?乗らないの?」
呼び止めたタクシーの運転手が、いらついた声を出す。
その時僕は開いたドアに手をかけて、彼女を見ていた。
傘をもつ彼女の左手の指輪が、濡れて鈍く光っている。
開いたままのタクシーのドア。
車の中の気温が下がっていって、吐く息が白くなり始める。
「車、出してください」
立ち尽くす彼女の姿が氷雨に重なって、
リアウィンドウから見える灰色の街に少しずつ溶け込んでいった。
雨降りの東京。
*** text at 2004/03/19.
(この文章における状況,人物,会話はすべて架空のものです。)
(2004/03/19 購入)
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